東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)22号 判決
一 請求の原因一、二の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決の取消事由の存否について検討する。
成立に争いのない甲第四号証の一ないし一〇四、乙第四号証ないし第二〇号証、第二二号証ないし第二四号証、被告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二五号証ないし第三一号証及び右被告代表者尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、「<1> 被告の代表取締役杉田信夫は、昭和二四年引用A商標と同一である「ミネルヴア書房」の商号により個人として出版業を起こし、同年一〇月「論理学入門」なる書籍を刊行したのを手はじめに、順次書籍の出版を行い、昭和二七年二月には、これを会社に組織替えし、ここに「株式会社ミネルヴア書房」との名称を有する被告会社が設立されたが、みずからその代表取締役として引き続きその経営に当り今日に至つていること、<2> 被告及びその前身である「ミネルヴア書房」が出版した書籍は、社会学、経済学、政治学、法律学等の学術書、文学書、大学生や一般人向けの教養書、高等学校用教科書・参考書等多方面に及んでいるが、これら出版書籍には後記四点のものを除き、引用A商標すなわち「ミネルヴア書房」の標章がそのカバー並びに書籍本体の平(表紙の平面部分)及び背部などに表示して使用されており、また昭和二五年に初版が刊行された「教育学」外三点のいずれも大学教養コース用テキストには、引用B商標すなわち「ミネルヴア全書」の標章が表示して使用されていること、<3> 被告及びその前身である「ミネルヴア書房」は、昭和二四年以降昭和四三年五月一六日までの間に、約一六〇〇点の書籍を刊行し、その総発行部数は、いわゆる返品(返本)を除外しても約四〇〇万部に達していること、<4> 右期間における出版書籍の販売経路は、この種出版業者のそれと異るところがなく、その大部分が大手又は中小の取次店を経由して小売書店に配本されたうえ、一般需要者に販売され、また、その出版物の宣伝活動は、新聞、雑誌に広告記事を掲載するほか、ダイレクトメールや「ミネルヴア通信」という小冊子を全国に配布するなどの方法によつて行なわれて来ていること」以上の各事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、引用商標は、いずれも本件商標の登録出願の日前に、すでに被告の業務に係る商品を表示するものとして需要者間に広く認識されていたものと認めることができる。
原告は、株式会社帝国興信所の調査資料等に基づいて、昭和二八年以降の被告の刊行書籍の販売部数を算出するなどして、引用商標が右出願日前未だ需要者間に広く認識されるには至つていなかつた旨主張するのであるが、右販売部数の算定方法は妥当なものではなく、前記認定を左右するに足りないうえ、原告の主張をもつてしても、被告の創業後数年を経た昭和二八年から昭和四二年までの総発行部数はすでに約六五万部というのであり、相当の数に達しているばかりでなく、右刊行書籍は、前認定のとおりその殆んどすべてが学術書や教養書であることからみて、購入者が読み終えた後にはその多くを廃棄、費消してしまう週刊誌や娯楽雑誌のようなものとはその類を異にし、購入者において長く保持、使用し、又はいわゆる古本として重ねて市場に現われるものも少くないと考えられるものであり、これらの点を考慮すると、仮に販売部数が原告が主張する程度であることを前提としても、引用商標は、本件商標の出願日前に被告の業務に係る商品を表示するものとしてこの種書籍の読者層としての需要者間に広く認識されていたものと解するのが相当である。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
<省略>